◆サプライチェーン・セキュリティ対策
  米国関税局の新たなセキュリティスキーム(C-TPATとCSIについて)
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米国関税局の新たなセキュリティ・スキーム(C-TPATとCSI)について (2002年3月29日時点)
2002/03/29

1.はじめに
昨年9月の同時多発テロ事件以降、米国ではホームランド・セキュリティに対する意識が高まっております。これを反映して、米国へ流入する輸入貨物ならびに輸入経路のセキュリティを高めるためのプログラム、C-TPAT(Customs – Trade Partnership Against Terrorism)、CSI(Container Security Initiative)が米国関税局から発表されました。こうしたセキュリティ・プログラムの基本的目的は、輸入貨物に紛れてテロリスト、武器・爆発物、生物・化学兵器、麻薬などが米国内に流入することを防ぐことにあり、特にコンテナ貨物の約98%が何等のチェックも受けないまま米国本土に陸揚げされている現状への強い危機感が背景にあります。
 C-TPATでは、輸入物流に係わる企業(船会社、通関ブローカー、倉庫管理者、輸入者、製造者)がプログラムの対象となっています。すなわち、輸入にかかわるサプライチェーンのセキュリティを高めることがC-TPATプログラムの直接的目的で、米国関税局は、初めてのワールド・ワイドなサプライチェーン・セキュリティ・イニシアティブであると述べています。
 C-TPATプログラムは既に一部開始されていると伝えられておりますが(後述)、CSIも含めて公式には全容が明らかにされておりません。このため、参加手続の内容あるいはプログラムの具体的なメリットが不明で、過大な負担が発生するのか、対米輸出に重大な支障が生ずるか等の可能性について計り難い現状となっています。現在把握している情報に基づいて両プログラムの内容を以下でご説明いたします。

2.C-TPATプログラムの概要[1]
(1)
概略:C-TPATプログラムとは、米国関税局の示すセキュリティ・ガイドラインにしたがって、企業(船会社、通関ブローカー、倉庫管理者、輸入者、製造者)がサプライチェーン・セキュリティ強化のためのコンプライアンス・プログラムを実施するとともに、関税局にC-TPATプログラム参加を申請する。このとき企業は併せてコンプライアンス・プログラムの実施を誓約するアグリーメントを関税局に提出する。これに対して関税局はC-TPATプログラム参加企業に対して、円滑な輸入通関など種々のベネフィットを提供する。
(2)
C-TPATプログラムの対象企業:船会社、通関ブローカー、倉庫管理者、輸入者、製造者
(3)
C-TPATプログラム申請手続:
C-TPATセキュリティ・ガイドラインを遵守することを誓約するアグリーメントを提出する。
サプライチェーン・セキュリティについての質問状に回答し関税局へ提出する。質問状回答の提出時期は、アグリーメントと同時提出か、またはアグリーメント提出後一定期間内に提出する。
(4)
C-TPATプログラム参加によるベネフィット
検査回数を少なくする(国境での時間の短縮)
税関アカウントマネージャーの指定(Assigned Account Manager)[2](まだ指定されていない場合)。
現在、ローリスク輸入者[3]と評価されている企業については、当該企業の全ての部門に対してローリスク輸入者取扱措置を拡大する。
C-TPAT参加者リストの閲覧。
関税支払いなどのための口座決済手段使用の資格付与(例えば、月2回/月一回などの定期〆日払い)。(Account-based process)
(5)
ベネフィット発効時期
ローリスク輸入者については、C-TPATアグリーメントに署名して申請すると直ちに受理されるとともに申請は速やかに処理され、ベネフィットは直ちに開始される。
他の企業については、関税局が申請企業のリスク評価をした後ベネフィットが開始される。関税局によるリスク評価は、サプライチェーン・セキュリティ質問状に対する回答が提出された後、30-60日で完了する。
(6)
C-TPATプログラム参加後
関税局のアカウントマネージャーと連携しながら、C-TPATセキュリティ・ガイドライン実施のためのアクション・プランを策定する。
(7)
C-TPATプログラム違反があった場合
関税局に誓約したコンプライアンスに違反があった場合、C-TPATベネフィットは停止され、コンプライアンスの欠陥が修正された後、ベネフィットは再開される。

3.C-TPATプログラムの現在までの動向(3月29日現在)
(1)
米国関税局の公表資料:①C-TPATファクトシート、②C-TPATアグリーメント・フォーム、③セキュリティ・ガイドライン(Security Recommendations)が公式に発表されているものの、サプライチェーン・セキュリティ質問状は発表されていない。当事務局の問合せに対して、米国関税局は、①サプライチェーン・セキュリティ質問状はアベイラブルになり次第ホームページに掲載する、②C-TPATプログラムは既に一部開始している、と回答。
(2)
2月27日付け物流専門紙Journal of Commerce[4]
COAC(Customs Oversight Advisory Committee:民間側20人から構成される財務省・税関への諮問機関)は、昨年11月からセキュリティ・ガイドラインの作成を行ってきた。その1月時点での報告書で、物流セキュリティのポイントとなる点を下記のように例示している。
  • 貨物が蔵置されているエリアへの人の出入りは管理されているか? 何人も自由に出入りできるか?
  • 従業員は全て倉庫へ出入りできるか? 許可された人間だけが出入りできるのか?
  • 施設への訪問者には案内係りが伴うことになっているか?
  • 在庫管理がコンピュータ管理されているとしても、データ入力は、貨物を実際に数えた人間と別の人間によって行われているか?
(3)
2月27日開催のIEMCA[5]会合での関税局担当者の発言
2月18日の週に、米国税関はTrade Complianceの監査でローリスクとの評価を与えた210社に対して、C-TPATに関する案内書面一式を送付。C-TPATに参加する意志のある企業は、アグリーメントに署名の上、30日以内に関税局に提出するよう求めたとのこと。
(4)
3月4日付けAAEI会報[6]
AAEI(American Association of Exporters and Importers)は、NCBFFA(National Customs Brokers and Forwarders Association)、JIG(Joint Industry Group)、 BACM(Business Alliance for Customs Modernization)などと4団体共同でC-TPATへのコメントを提出するための準備を進めている。コメントの論点は、概要以下の通り。
  • C-TPATプログラム実施にともなう費用
  • C-TPATプログラム実施による時間(タイムフレーム)
  • どのような効果が(C-TPATプログラムの中の)個々の措置について期待できるか
  • 海外サプライヤーから適切なコミットメントを引き出すためのレバレッジとは
  • 海外サプライヤーによるコミットメント履行をモニターすることが可能であるか
    引用されている税関関係者のコメント:「サプライチェーン・セキュリティ質問状は3月末頃に明らかにされるであろう」、「包括的な質問内容にしたいと考えているが、600ページにもなるような回答を企業から受け取りたいとは思わない」
(5)
当組合員企業から寄せられた情報
C-TPATの進展状況は米国でも余り明らかではない様子。実証実験に参加することに賛意を示したコンプライアンス優良企業5社をC-TPATパイロットとして選定した。 MOU(アグリーメント)を締結後に税関とともに将来の参加者のモデルとなるSecurity Procedureを構築する模様とのこと。
NAFTA等国境越えの反復、且つ大量輸入される貨物の自動安全確認検査システム(Border Release Advanced Screening and Selectivity:BRASS)の規則を改正し、集中管理を取り入れるとして現在パブリックコメントを公募中。
(6)
質問状の概要(当事務局で入手のもの)
上記(3)で述べたように、既にローリスクと判定されている210社に配布されている質問状で、これが最終的な質問内容になるかの確認は取れていない。
質問状(Supply Chain Security Profile Questionnaire)は、イエス・ノーの回答形式ではなく、各社が既に実施している現行セキュリティ・プログラムの概要の提出を求める内容となっている。
特に、少なくとも以下の項目は必須回答項目としており、これらに対する概要と税関が確実に検証できることを示すことが求められている。
  • セキュリティ・プログラム
    1. 施設セキュリティ、
    2. 盗難予防
    3. 出荷・入荷管理
    4. 情報セキュリティ管理(自動システムの安全性確保)
    5. 内部管理(報告及び問題解決プロセスの確立)
  • 社員セキュリティ
    1. 雇用前スクリーニングと定期的バックグラウンドチェック
    2. セキュリティ意識向上のための社員教育と手続
    3. 内部行動規定
    4. 内部管理(社員セキュリティに関連する報告及び問題管理プロセスの確立)
  • サービス・プロバイダー要件(製品サプライヤー、運送業者、フォワーダー)
    1. 上記事業者の施設の物理的セキュリティに対する基準(文書化されたもの)
    2. システムの安全性を確保するための、生産プロセスに関する品質管理
    3. 上記事業者の財務的安全性及び契約条件に沿って財・サービスを供給する能力を判定するための財務評価プロセス
    4. 業者選定のための内部管理
    5. ティア1サプライヤー(最終仕向け地へ送り出すために完成品を受取り梱包する業者)のプロファイルの維持と更新
なお、この社内セキュリティプログラムの自己評価についても併せて提出することになるが、プログラム内の弱点が認識されていたとしても、税関への回答時に是正されている必要はなく、これは今後税関担当者のアドバイスにより行われることになる。ここに、"Partnership"と名付けれている所以があるように思われる。

4.CSI(Container Security Initiative)について[7]
 ①
ロバート・ボナー米国関税局長官(Commissioner) が、1月17日にCenter for Strategic and International Studiesで行った講演の際明らかにされた、輸入海上コンテナ貨物のセキュリティ・プログラム。
 ②
事実認識:世界で貿易貨物の90%はコンテナ貨物であり、毎年1600万コンテナが船、空、トラック、鉄道によって米国本土へ運ばれている。海上では、毎年21万4000隻の船で570万のコンテナが米国に陸揚げされている。
 ③
CSIの4つのエレメント
  • ハイリスク・コンテナとするためのリスク基準を策定する
  • 米国の港に着く前に事前チェック(pre-screening)を実施する
  • ハイリスク・コンテナを事前にチェックするための技術を開発する
  • スマート・コンテナの開発と使用
 ④
CSIの実施の最初のステップとして、米国へのコンテナ積み出しの多い外国の港上位10港(10メガポート)が所在する外国政府にCSIに参加するよう働きかけていく予定。
 ⑤
10港は既に決定済み。上位10港で米国へ輸入されるコンテナ貨物の半数(49%)を占めており、香港、上海、シンガポール、ロッテルダム、プサン、高雄など多くはアジアである。東京港も第8位でリストアップされている。
 ⑥
具体的実施方法:輸出港を出る段階で近代的機材(エックス線、ガンマ線検査装置)によるコンテナ・チェックを行い、ローリスク・コンテナとハイリスク・コンテナに分別する。同時に、マニフェストは米国側へ送られる。当該コンテナが米国港についた時に、既に送られているマニフェストと照合する。C-TPAT参加者によって輸送されたローリスク・コンテナは、ファーストレーンに乗せられ迅速な輸入通関が行われる。
 ⑦
米国関税局は、必要であれば人的支援も行う(外国港への米国税関担当者の派遣)。
 ⑧
なお、米国関税局が各国政府に既に打診を開始したかは目下のところ不明。
 ⑨
3月25日より、カナダでCSIを開始している。米国税関担当者がカナダのハリファックス港、モントリオール港、バンクーバー港に駐在、カナダ税関担当者が米国のシアトル港、タコマ港、ニューアーク港に駐在し、コンテナチェックを開始している。

5.まとめ :米国関税局は、C-TPATを世界で初めてのワールドワイドなサプライチェーン・セキュリティ・イニシアティブであると説明しています。C-TPATは船会社から輸入者・製造者をカバーするものですが、これにCSIを加えると下図の通り、輸出から輸入までの経路すべてに渡ってセキュリティ・プログラムでカバーされることになります

輸出(積み替え港)
船会社・通関ブローカー・倉庫管理者>・輸入者・製造者
 
CSI
 
C-TPAT

--------------------------------------------------------------------------------
[1]
別添C-TPATファクトシートアグリーメントフォームセキュリティ・ガイドライン(事務局仮訳)参照
なお原文は下記から入手可能。
  • ファクトシート:www.cbp.gov/xp/cgov/import/commercial_enforcement/ctpat/fact_sheet.xml
  • アグリーメント・セキュリティガイドライン:www.cbp.gov/xp/cgov/import/commercial_enforcement/ctpat/
[2]
米国関税局の回答によれば、通関関連業務について輸入者が直接的にコンタクトできる税関側担当者とのこと。C-TPATプログラムに参加している個々の企業毎に税関側担当者が指定されるものと思われる。
[3]
既に別にある次ぎのような貿易関係企業のコンプライアンス評価プログラムによってリスク評価されていることを指している。CIP(Carrier Initiative Program:麻薬密輸増加に対応するべく1984年に設置されたプログラム)、BASC(Business Anti-Smuggling Coalition)、ACSI(Americas Counter Smuggling Initiative)、LRI(Low Risk Importer Program)
[4]
“Customs Update” by Susan Kohn Ross, Journal of Commerce, Feb.27 2002
[5]
International Electronics Manufacturers and Consumers Association,米国ワシントンの通商問題対応業界団体
[6]
American Association of Exporters and Importers. 米国の輸出入企業で構成される業界団体。
“aaei Alert” Volume 102 Number 9, March 4, 2002
[7]
CSI Fact Sheetはhttp://www.cbp.gov/linkhandler/cgov/enforcement/international_activities/csi/
csi_factsheet_052404.ctt/csi_factsheet_052404.doc参照

以上


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