◆サプライチェーン・セキュリティ対策
  米国関税局の新たなセキュリティスキーム(C-TPATとCSIについて)
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SAFE Poar Actの概要(米国のサプライチェーン・セキュリティ強化法)
2006/12/05

米国のサプライチェーン・セキュリティ強化法の成立

部会・貿易業務グループ

 10月13日、ブッシュ大統領は、輸出者、米国輸入者、船社、通関業者、港湾オペレータ、その他国際サプライチェーンに係る企業に大きなインパクトを与えと考えられる、SAFE Port法案に署名した。正式名称は“Security and Accountability For Every Port Act of 2006”(2006年全港湾に対する安全確保と説明責任法)であり、短縮形として“SAFE Port Act”と呼ばれる。同法はサプライチェーン・セキュリティに対する多面的なアプローチを採用しており、今後、幅広いあらたな実施規定の導入とインフラ投資が予想される。

 米国ワシントンDCのJoseph Whitlock弁護士(Heller Ehrman LLP 法律事務所[1])から、大部に及ぶ「SAFE Port Act」の概要を簡潔に把握できるレポートを当組合に寄稿いただいた。Whitlock弁護士のレポートを当事務局で翻訳し、SAFE Port Actの概要を以下の通り報告する。

SAFE Port Actの原文 →(217KB)

 まずはじめに、同法は、既に官民パートナーシップ・プログラムとして知られているC-TPAT(Customs - Trade Partnership Against Terrorism)プログラムに対して法的根拠を付与している。C-TPATプログラムへの参加については、現行と同様、企業の任意(ボランタリー)としたままであるが、その他C-TPATに係る重要な内容は以下の通りである。
  • C-TPAT参加企業はC-TPATプログラム参加後1年以内にバリデーション(実地調査)を受けなければならない。また、米国税関は、最初のバリデーションの後の再バリデーションについてのフレームワークを構築する。すなわち、少なくとも4年に一度再バリデーションを受けるべき企業を確定するためのフレームワークを構築する[2]
  • 現行C-TPATの構成と同じく、実施内容レベルとベネフィットに対する3段階システム(three tiered system)を踏襲している。バリデーションによるC-TPAT実施内容の評価に応じて、米国税関当局はC-TPAT参加企業をティア1、ティア2、ティア3とランク付けする。ティア3と評価された企業は最高レベルのC-TPATベネフィットを受けることになるものの、それでもベネフィットは限定的である。同法では、多くの米国輸入者が要望していたベネフィットを付与する権限を税関に与えていない。米国輸入者はティア3ベネフィットとして、たとえばティア3企業に対するduty refund及び/あるいはTax Rebateなどを要望していた。
  • 同法は、C-TPATで義務付けられている条件を満足させることができなかった企業に対してベネフィット付与を拒否できることを税関に認めている。ベネフィット付与を拒否された企業には、不服申し立ての行政手続きが規定されている。また、もしC-TPAT参加企業が意図的に虚偽もしくは不実情報を税関に提出した場合、税関はC-TPAT参加のステータスを中断または剥奪しなければならない。また、米国税関は、C-TPAT中断措置を受けた企業名を官報(フェデラル・レジスター)において公表できる。

 従来のサプライチェーン・セキュリティ・プログラムに対する同法の最も重要な変更は、C-TPATプログラム以外の部分にある。
  • 同法は、米国港湾において実施すべき3つのタイプのコンテナ検査(inspection)・スキャニング要件を定めており、米国税関は以下を行わなければならない。
    1. 全ての“ハイリスク”コンテナをスキャニングする。これは既に現在実施されている。
    2. 2007年10月12日までに、税関はコンテナのランダム検査システムを開発し実施する。
    3. 2007年12月までに、米国の22の港湾に積み下ろしされる全てのコンテナに対する放射性物質スキャニング・システムを開発し実施する。
  • 米国税関は、輸送中のコンテナの安全確保のための必要最低基準の規則を策定する。
  • 全ての米国向け貨物について外国港でスキャニングすることを念頭に置いている。2007年10月12日までに国土安全保障省は、3つの外国港でそのためのパイロットプログラムを実施しなければならない。
  • CSI(Container Security Initiative)に対する必要最低基準と効果測定基準を定めている。CSIとは、米国税関検査官が外国港に常駐し、当該国港湾の税関検査官と協力して米国向け貨物について潜在的なハイリスクコンテナを確認、検査するためのプログラム。
  • SAFE Port法では自動ターゲティング・システム(Automated Targeting System)のための収集データの範囲拡大を規定していることから、貨物マニフェスト情報以外の追加情報を輸入に先立って申告することが必要になると考えられる。
  • 全ての米国港湾において、新たに港湾労働者IDカード・システムを導入する。
  • セキュリティに係る事件が発生して港湾が閉鎖された後の再開手順を記述している。このような事態において、C-TPAT参加者としてバリデーションを受け、海運セキュリティ法(Maritime Transportation Security Act)の規定を遵守している船舶が、米国港湾に優先的にアクセスできる。

 個々の規定の内容は上で述べたとおりであるが、こうした規定がもたらす全体的な影響として、米国税関に義務付けられているコンテナ検査とスキャニングを実施するにつれて、ビジネスのコストが上昇し輸入通関に時間がかかることになりそうである。今後、SAFE Port Actに盛り込まれた様々な規定が実施されることになるが、効率的なサプライチェーンのオペレーションを維持するには、実施規則発表の動向を注意深くチェックし、迅速に対応できるよう準備を図る必要がある。

 当事務局でも必要に応じ動向を組合員の皆様に提供する予定である。



[1] Joseph Whitlock 弁護士、Heller Ehrman 法律事務所、joseph.whitlock@hellerehrman.com
   http://www.hellerehrman.com
[2] 再バリデーションについてWhitlock弁護士に確認したところ、以下の回答であった。“再バリデーションの規定文言には曖昧な部分がある。米国税関は必ずしも全てのC-TPAT参加企業を再バリデーションする必要はない、とも解釈し得る。”

以上


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