◆サプライチェーン・セキュリティ対策
  米国関税局の新たなセキュリティスキーム(C-TPATとCSIについて)
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CBPトレードシンポジウム
2005/01/20

2005年、明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願い申しあげます。

いつも本ページへアクセスいただき有難うございます。昨年は、特に後半、本欄でご報告する情報が少なくなりました。しかし全く動きが無かったというわけではありません。水面下でいろいろ検討されていたものが、最近ようやく顔を出し始めたようです。年頭にあたり、最近の動向について、米国のC-TPAT改定の動きを中心にご報告いたします。

C-TPATに関する動きを要約すると、以下の通りとなります

(1)昨年以来、C-TPATガイドラインの改訂作業が進められているが、まだ纏められていない。C-TPAT参加の任意性は維持されるものの、その実施内容について従来の推奨(recommendation)から義務的要件とされる部分の比率が高くなりそうである。輸入者は、外国のサプライヤーがサプライチェーン・セキュリティの内部管理体制について詳細な情報を集めるよう求められると見られる。
(2)第5回トレード・シンポジウムでのCBPの報告と配布資料(C-TPAT Strategic Plan)によれば、C-TPATのベネフィット提供、国際化(internationalization)等さらなる戦略を検討している。


1.C-TPATの改定案
国土安全保障省が昨年末に発表した2004年のイヤーレヴューによれば、C-TPAT参加申請を行った企業は8000社を超えたと報告されています。C-TPATについては、予てより参加によるベネフィットが提供されていないという不満が参加企業から言われている一方、議会サイドからは、参加に際して約束した水準のサプライ・チェーン・セキュリティ管理を参加企業が本当に実行しているかCBPの検証能力を問われています。

こうした中、昨年からC-TPATガイドラインの改定作業が行われておりますが、その改定案は一部の関係者だけに回覧されているだけであり、断片的な情報のみが伝えられているばかりです。日本関税協会の月刊誌「貿易と関税」2004年12月号で、この改定案の概要が掲載されています(「C-TPAT改定に向けた提案 ―日本の輸出関係企業への直接的な影響が強まる―」Miller & Chevalier Chartered、Joel W.Rogers弁護士、Joseph P. Whitlock弁護士)。「貿易と関税」の記事によれば、国土安全保障省国境税関保護局(CBP)は参加企業に対してこれまでに以上に厳格な基準を導入することを検討しているとして、以下が紹介されています。
  • 「C-TPAT参加の米国の輸入企業は、外国のサプライヤーが子会社であるかどうかに関係なく、当該サプライヤーからセキュリティに関する詳細な情報を収集する必要がある」とし、「外国の輸出企業その他の関係企業は、セキュリティ上で取っている措置を米国の輸入企業に説明する責任を負う...。」
  • 「C-TPAT参加の輸入企業がセキュリティ上の質問状への回答を作成する際の様々なセキュリティ面についての手続を、CBPは標準化し、且つ様式化する...。」

 C-TPATはボランタリープログラムとして実施されています。この任意性(ボランタリー)は2重の意味を持っています。すなわち、C-TPATに参加するか否かについて個別企業が自主的に判断する参加の任意性と、CBPのガイドラインに沿って社内サプライチェーン・セキュリティ管理プログラムを実施する際の実施方法の任意性です。「貿易と関税」の記事を読む限り、C-TPATが改訂されても「参加の任意性」は維持されるようですが、「実施方法の任意性」はかなりの制約を受けることになりそうです。既にご承知のように、C-TPAT参加者は、CBPの示すサプライチェーン・セキュリティ・ガイドラインに沿って社内管理プログラグラムを実施するということになっていますが、それはあくまでもリコメンデーション(推奨)であり、「企業独自のセキュリティ上の手続を設定した上で、これをCBPに開示する」ものであり、「輸入企業には、外国のサプライヤー.....に対してC-TPATコンプライアンスを執行させる義務が無く、.....CBPが勧奨する措置を履行するよう奨励するに留まって」います。(「」内は「貿易と関税」から抜粋)。すなわち、C-TPAT改訂案が実施されることになれば、参加者にとって今以上に義務的要件が課されることが窺われますが、既に参加者となっている企業にも追加的に課されるのか、あるいは新規参加者だけなのか、改定案の内容が公表されていないので詳細は不明です。一部の関係者にだけ回覧されている状況ですが、大きな反響があり、昨年12月には米国の荷主団体であるNIT League(National Industrial Transportation League)が改定案第二版を厳しく批判しています
(http://www.nitl.org/CBPFiling.pdf)。CBPとしては改訂を昨年末までに纏めてしまいたかったようですが、業界の同意が得られていないことから、現在第三版を作成し回覧しているとのことです。

 さて、日本企業にとって気懸かりなことは、このC-TPAT改定案が海外サプライヤーを今以上に直接的にC-TPATプログラムに取り込もうとしている点です。C-TPATは2002年4月以来、輸入者(フェーズ1)、キャリア(フェーズ2)、フォワーダー(フェーズ3)、ターミナル・オペレータ(フェーズ4)が参加対象業種となっています。当初の計画ではフェーズ5として海外製造者が参加対象となる予定でしたが、2003年8月にメキシコの製造者に参加手続が開始されて以降、他の地域の製造者に対する参加手続は開始されていません。しかし、サプライチェーンの最も川上にある海外サプライヤーをサプライチェーン・セキュリティ・プログラムに明示的に取り込む方向で検討されているのは間違い無いように思われます。

 この関係で興味深いのは、昨年以来CBPによる国際的な働きかけの動きが目立っていることです。目立つものとして以下の動きがありました。
  • 昨年6月のWCO総会におけるスピーチでCBPボナーコミッショナーは、共通のスタンダードに基いた国際貿易の円滑化とセキュリティ強化のための税関・企業のパートナーシップ・プログラムが必要であり、また共通のリスク・マネージメント・アプローチを用いて、貨物の円滑な移動と保護のための税関間の協力プログラムが必要であるとの見解を表明。
    http://www.cbp.gov/xp/cgov/newsroom/commissioner/speeches_statements/062504_wco_brussels.xml
  • 昨年12月のWCOハイレベル委員会において、米国が実施しているセキュリティプログラム(24時間ルール、C-TPAT、CSI、自動ターゲティングシステム(Automated Targeting system)をベースとして国際サプライチェーン・セキュリティ及び貿易円滑化のためのスタンダード確立の計画が発表された。
    http://www.customs.gov/xp/cgov/newsroom/press_releases/archives/2004_press_releases/122004/12092004.xml
  • 11月15日、EUと米国は、税関協力協定に基いて協議されてきた海上コンテナのセキュリティ強化措置について、その第一段に合意した。
    http://europa.eu.int/comm/taxation_customs/whatsnew.htm

新年1月10日付けのJournal of Commerce誌で、ボナーコミッショナーは、“2005年は、国際貿易における複合一貫輸送をよりよく保護する戦略に対するInternationalizationの年になるであろう”との見解を披露しています。前置きが長くなったようですが、サプライチェーン・セキュリティ・プログラムのInternationalizationが2005年のキーワードであるように思われます。


2.C-TPATのInternationalization
新年早々、1月13~14日の2日間にわたってCBPは第5回トレード・シンポジウム2004を開催し、“Securing the Supply Chain(副題:C-TPAT Strategic Plan)”と題する資料を配布しています。同資料はCBPのホームページでも公開されています。
http://www.cbp.gov/linkhandler/cgov/import/commercial_enforcement/ctpat/ctpat_strategicplan.ctt
/ctpat_strategicplan.pdf

“C-TPAT Strategic Plan”では、5つのゴールが設定されています。すなわち
 ゴール1: C-TPAT参加者は、C-TPATの基準に沿ってサプライチェーン・セキュリティを改善すること。
 ゴール2: C-TPAT参加者への出荷プロセスを円滑化することを含め、インセンティブとベネフィットを提供すること。
 ゴール3: 国際的な協力と調整を通じてC-TPATの基本原則(core principles)を国際化(Internationalize)すること。
 ゴール4: CBPの他のセキュリティ及び円滑化イニシアティブを支援すること。
 ゴール5: C-TPATプログラムの執行・管理(administration)を改善すること。

 ゴール3でC-TPATのInternationalizationが述べられています。このinternationalizationの趣旨として概要以下の通り説明されています。すなわち“C-TPATは米国への輸入サプライチェーンの国内外に跨る全てのセグメントを繋いで築かれているが、より広くC-TPATのコアとなる原則を可能な限り国際的に拡張することは、一般的な国際貿易の保護になり、米国の国家利益となるものである。このinternationalizationは、国際貿易の全体的なセキュリティを保障すると同時に、米国から他国への輸出を円滑化することになるので、かくして、C-TPATをinternationalizingすることは、全ての国々の間でのサプライチェーン・セキュリティを促進し、国際貿易を円滑化することになる。C-TPATは、他国の税関当局、国際的な法執行機関、国際機関及び国際貿易コミュニティとの協力とともに、国際的なセキュリティ・スタンダードを開発することになる。” このような趣旨の下、以下の通り4つの目標(Objective)が明示されています。
オブジェクティブ3.1: 
グローバル・サプライチェーン保護を支援するために国際貿易コミュニティと協力する。
オブジェクティブ3.2: 
反テロへの取組みの調和(Coordination)を改善するため、各国の個々の税関当局と協力する。
オブジェクティブ3.3: 
税関と貿易企業とのパートナーシップを理解し、国際貿易を保護し円滑化するためにWCOによって提供されるフレームワークを開発するためのWCOの取組みを支援する。
オブジェクティブ3.4: 
公的国際機関及び民間の国際機関がその会員に対するセキュリティ要件を向上させられるよう、セキュリティ要件の統一性(integrity)を改善するためこれら機関との調和を図る。

さらに、トレード・シンポジウムでは次のように報告されています。(1月14日付け American Shipper誌)
  • 海外製造者に対してC-TPATを開始したい。
  • 現在、輸入額の40%はC-TPAT参加者によるものであるが、1年以内に60%にすることが目標である。
  • 海外製造者の(C-TPAT)申請手続きのための種々の方法(Avenue)を、サプライヤー上位100社の参加を得るため産業団体(industry organization)と協力することを含め、検討しているところ。別の選択肢として、WCOのフレームワークに基いてC-TPATと同様のプログラムを設立する。このプログラムによって認定(certified)された海外製造者を米国は認証(recognize)できる。

3.C-TPATのベネフィット
 C-TPAT参加のベネフィットが提供されていない不満は予てより参加企業から言われていました。この不満に対してボナーCBPコミッショナーは、トレード・シンポジウムでこれまでの検査実績の数字を提示して現状のベネフィットの提供状況を説明しています。すなわち、C-TPAT参加者がセキュリティ等貨物検査を受ける比率は1/6であり、コンプライアンス関連の精査を受ける率は1/4である。これは、非参加者が47回に1回の検査を受けるのに対し、C-TPAT参加者は300回に1回に過ぎないのと等しいと報告しています。また、検査回数の減少が数字に表れていないと思っている企業もあるかもしれないが、それは、9.11のテロ事件以降、CBPは税関での検査率を4倍に高めているからであり、(以前と同じ)検査回数の数字となっているかもしれないが、(C-TPATに参加していなければ)6倍の検査回数になっていた可能性があると説明し、個別企業毎に、C-TPATベネフィット実績を数値化したアニュアルレポートを送るとの昨年来の約束を繰り返しています。(American Shipper)

 今後のC-TPATのベネフィット提供の取組みについて、上述の配布資料“Securing the Supply Chain(C-TPAT Strategic Plan)”では、「ゴール2:C-TPATのベネフィット提供」に関して、「レベル分けされたベネフィット(tiered Benefits)の提供」を検討していると記述しており、
  • 今年は、最小限のセキュリティ要件を超えるセキュリティ管理を実施する意欲と最高の実施状況を見せた米国輸入者に対して「グリーンレーン」扱いの提供を開始する。これは、貨物検査が無く直ちに引き取れることを意味する(No inspection on arrival ? immediate release)。
  • CBPのセキュリティプログラムと一部シッパーにおける信頼性は、「グリーンレーン」取扱いが今や実行可能なレベルに発展してきている。
  • 最高レベル(highest tier of benefits)を求める企業は、CSI港を通じて出荷し、スマート・コンテナを利用しなければならない。
  • CBPとしては、バイヤーの要求に応じてサプライヤーが品質管理基準を満足させるのと同じように、輸入者の要求に応じてサプライヤーがセキュリティ基準を満足させることを期待している。

ボナー・コミッショナーをはじめCBP担当官はおよそ上のような報告をシンポジウムでしたようですが、昨年年頭に本ページでご報告した「ベスト・プラクティスとグリーンレーン」の内容と殆ど変わっておりません。
http://www.jmcti.org/C-TPAT/vol.1/2004/C-TPAT_CSI_1-69.htm

4.C-TPATの審査とバリデーション状況
 トレードシンポジウムでは、併せてC-TPAT参加審査とバリデーションの結果審査についても報告されています。
(1)C-TPAT参加審査
  • C-TPAT参加申請のために提出されるセキュリティ・プロファイルについて、C-TPAT実施初期には12%が受理されず申請者に返送されたが、現在では20%が受理されていない。受理されなかった場合、申請者は内容を修正し再提出する。これまでに5500のプロファイルをCBPは審査したが、約1000が一旦は返送されたことになる。
  • C-TPAT参加者として認定された4400社のうちバリデーションを受けたのは約10%。 9社がバリデーションに失敗し、その大半がC-TPAT参加者としての地位を剥奪され、1社は現在C-TPATベネフィットの提供を停止されている。

5.ACE 月次一括納税(Periodic Monthly Statement)プロセス
 C-TPAT参加者に約束されているベネフィットには、低い検査率・迅速な通関だけでなく、アカウント・マネージメントによって関税の月次一括納税(PMS:Periodic Monthly Statement)が行えることがあります。PMSは現在開発中の新通関システムACE(Automated Commercial Environment)を利用して行なわれることになっています。ACE開発のリリース3でPMSの機能が稼動するということになっており、昨年6月からテストに入っています。このテストの参加資格要件は、認定されたC-TPAT参加者であることとインターネット接続環境を有していることだけです。当組合組合員企業の現地法人でも既にこのテストに参加している会社があり、キャッシュ・フローが改善した等その使い勝手の良さが報告されています。

 米国のコンサルタント会社Avalon Risk Managementのニューズレターによると、トレード・シンポジウムで、CBPのジョン・マクドナルド技術・情報室担当コミッショナー補代理(Acting Assistant Commissioner, office of Information and Technology)は、月次一括納税の資格要件からC-TPAT参加要件を外す予定であることを発表しました。C-TPAT参加要件が外されればPMS参加者は劇的に増大するのではないかと、Avalon Risk Managementでは予測しています。
 因みに昨年11月までのPMSの利用状況は下記の表の通りです。
Periodic Monthly Statement発行日(2004年) 輸入者数 申告件数 トータル納付額
(Duties and Fees)
7月15日 6 11 $84,673
8月15日 18 1,733 $4,326,184
9月15日 26 4,473 $27,610,062
10月15日 30 8,962 $41,757,495
11月15日(11月2日時点) 45 12,438 $48,856,665
年初来累計 125 27,617 $124,184,144
出典:2004年11月9日CBP資料

欧州の動向については追ってご報告します。

以上


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