日本機械輸出組合
米国著作権法第110条(5)に関するWTOパネル報告書の日本語訳と解説
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【WTOパネル報告書の紹介と解説―第1回】WTO法研究会 |
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T はじめに2001年4月、有志による私的な研究会として「WTO法研究会」が発足した。メンバーは、大学・研究所に所属する研究者のほか、法律家・行政官・企業法務担当者などの実務家であり、月に1回程度会合を持って、世界貿易機関(WTO)の紛争処理機関が出したパネル報告書を詳細に検討している。会の目的は、WTOの紛争処理の場における実体法・手続法のありかたを、実際の事件を通じて検証することにある。現在、米国著作権法110条(5)に関する2000年6月15日付けパネル報告書(WT/DS160/R)の精読を進めているところである。研究の成果として、パネル報告書本文及びその脚注部分の日本語訳ができあがりつつあるので、この翻訳に若干のコメントを付して、公表することにした。公表の場を提供していただいた日本機械輸出組合のご厚意には深く感謝する次第である。なにぶんパネル報告書は大部であり、翻訳が完成した部分ごとに何回かに分けて掲載することになることをお許しいただきたい。 U 本パネル報告書が対象とする事件の概要本件は、ECが米国著作権法110条(5)はTRIPS協定9条1項に反するとして、1999年1月に米国に対して協議要請を行うことによって開始された紛争処理案件である。ECが問題にしている米国著作権法110条(5)は、1998年10月に音楽ライセンスの公正に関する法律(Fairness in Music Licensing Act)によって改正されたものである。この法律は、要するに、ラジオやテレビで放送される音楽を、一定の条件の下で、飲食店や小売店舗において、著作権者の許諾を要することなく、また、ロイヤルティの支払もなく、流すことを許容するというものである。同条項が例外として許容しているのは、ひとつは「homestyle exemption」(同110条(5)(A))といわれるものであり、もうひとつは「business exemption」(同110条(5)(B))といわれるものである。 ECは、この法律がベルヌ条約11条、11条の2に違反すると主張している。これらベルヌ条約の条文は、TRIPS協定9条1項によって、TRIPS協定の一部となり、その結果、ベルヌ条約を批准しているかどうかにかかわりなく、WTO加盟国がすべからく遵守すべき義務になっている(世界貿易機関を設立するマラケシュ協定2条2項参照)。 本件のパネル報告書は、ECと米国間のこの紛争の解決に係るものであり、TRIPS協定の解釈適用に関して、種々の興味深い分析を行っている。例えば、(1) ベルヌ条約において解釈上認められていたとされるいわゆる「マイナー・エクセプション原則」(minor exceptions doctrine)もベルヌ条約の条文と共にTRIPS協定に取り込まれるか、(2) TRIPS協定13条の適用範囲如何(その適用範囲は、TRIPS協定が創設した新種の権利に限るかどうか。)、(3) TRIPS協定13条の解釈如何、特に同条に規定する3要件(@ certain special cases(特別な場合)、 A not conflict with a normal exploitation of the work(著作物の通常の利用を妨げず)、 B unreasonably prejudice the legitimate interest of the right holder(権利者の正当な利益を不当に害しない))の意義、(4) TRIPS協定13条にいう上記要件の立証責任の所在などについて、詳細な議論を展開している。 V 本パネル報告書と我が国の著作権法我が国は、本件パネル手続に第三国として参加し、意見書を提出している。我が国の著作権法38条3項は、「放送され、又は有線放送される著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、受信装置を用いて公に伝達することができる。通常の家庭用受信装置を用いてする場合も、同様とする。」と規定している。特に同項後段は、放送された著作物を通常の家庭用受信装置を用いて公に伝達することについては、広範な例外を認めている。本パネル報告書が示したTRIPS協定及びベルヌ条約の解釈に照らして考察したときに、我が国の著作権法38条3項後段の規定が同協定・条約に整合するものであるかどうかついては、慎重な検討を要することになる(この点について、道垣内正人=内記香子「米国の著作権法に関するWTOパネル報告書」国際商事法務29巻4号414頁を参照)。 このような状況の下において、本パネル報告書を詳細に検討し、その成果の一端を公表することには大きな意義があるものと考え、パネル報告書の本文及び脚注の全訳を掲載することとした次第である。 (尾島 明) W 翻訳世界貿易機関 WT/DS160/R 米国―米国著作権法110条(5)小委員会(Panel)の報告書DSUに基づいて、「米国―米国著作権法110条(5)」に関するパネル報告書が、全加盟国に配布される。「WTO文書の配布と公開制限解除のための手続(WT/L/160/Rev.1)」に基づいて、この報告書は、2000年6月15日から公開制限のない文書として配布される。紛争当事国のみが、DSUに従い、パネル報告書に対して上訴をすることが許される。上訴の対象は、パネル報告書に取り上げられた法律問題及びパネルが展開した法的な解釈問題に限定される。パネルまたは上級委員会(Appellate Body)で審理中の事項に関して、パネルまたは上級委員会と一方当事国のみが接触を持ってはならない。事務局による注: このパネル報告書は、紛争当事国の一方が上訴することを決定するか、またはDSUがコンセンサスで報告書を採択しないことを決定しない限り、配布の日から60日以内に紛争解決機関(DSB)で採択されなければならない。このパネル報告書が上級委員会に上訴された場合は、上訴が終局するまでDSBにおいて採択のための検討が行われることはない。このパネル報告書の現在の状況についての情報は、WTO事務局で入手可能である。 (訳注) 国会承認を得た公式訳では「panel」は「小委員会」であるが、この翻訳中では、「パネル」の語を使用する。 「DSU」は、世界貿易機関を設立するマラケシュ協定附属書2の「紛争解決に係る規則及び手続に関する了解(Understanding on Rules and Procedures Governing the Settlement of Disputes)」のことである。 目次(省略)T. はじめに(Introduction)1.1 欧州共同体とその加盟国(以下「欧州共同体」という。)は、1999年1月26日、紛争解決に係る規則及び手続に関する了解(以下「DSU」という。)4条及び知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(以下「TRIPS協定」という。)64条1項に基づき、米国著作権法110条(5)(1998年10月27日成立の「音楽ライセンスの公正に関する法律(Fairness in Music Licensing Act)」によって改正されたもの)に関し、米国に対して協議を要請した(注1)。(注1) 文書WT/DS160/1(1999年2月4日)を参照。 1.2 欧州共同体と米国は、1999年3月2日に協議をしたが、相互に満足のゆく解決に至らなかった。欧州共同体は、1999年4月15日、DSU6条及びTRIPS協定64条1項に基づいて、パネルの設置を要請した(注2)。 (注2) この報告書の附属書1に添付された文書WT/DS160/5(1999年4月16日)を参照。 1.3 紛争解決機関(以下「DSB」という。)は、1999年5月26日の会合において、DSU6条に従って、次の標準的な付託事項を定めて、パネルを設置した。 「欧州共同体が文書WT/DS160/5において引用する適用協定の関連条項に照らし、欧州共同体が当該文書においてDSBに付託した事項について審査し、DSBがそれらの協定に規定された勧告を行い、または裁定を下すのに資するような判断をする。」(注3) (注3) この報告書の附属書2に添付された文書WT/DS160/6(1999年8月6日)を参照。 1.4 オーストラリア、ブラジル、カナダ、日本及びスイスは、第三国としてパネル手続に参加する権利を留保した。 1.5 欧州共同体は、1999年7月27日、DSU8条7項に基づき、担当事務局長に対し、パネルの構成を決定することを要請した。1999年8月6日、パネルは、次のように構成された。 議長: カルメン・ルス・ガルダ(Carmen Luz Guarda)女史 委員: アルムガマンガラム・V・ガネサン(Arumugamangalam V. Ganesan)氏 イアン・F・シェパード(Ian F. Sheppard)氏 1.6 パネルは、1999年11月8日、9日と1999年12月7日に当事国と、1999年11月9日に第三国と会合を持った。 1.7 パネルは、11月15日に文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約の運用を担当する世界知的所有権機関(WIPO)の国際事務局に書簡を発した。パネルは、同書簡中において、TRIPS協定9条1項によって同協定に組み込まれており、本件に関連する同条約の1971年パリ改正条約(以下「ベルヌ条約(1971)」という。)の条項に関する事実について情報提供を求めた。WIPOの国際事務局は、1999年12月22付けの書簡によって同情報を提供した。両当事国は、この情報に対して2000年1月12日付けの書簡をもって意見を述べた。 1.8 パネルは、2000年4月14日、その中間報告を当事国に提出した。パネルは、2000年5月5日、その最終報告を当事国に提出した。 |
U. 事実的側面(Factual Aspects)2.1 本件紛争は、1999年1月26日施行の1998年「音楽ライセンスの公正に関する法律」(以下「1998年改正法」という。)(注5)によって改正された1976年米国著作権法(注4)110条(5)に係るものである。110条(5)の条項は、特定の実演及び展示に関し、著作権法106条によって著作権の保有者に与えられた排他的権利に制限を課するものである。(注4) 1976年米国著作権法(1976年10月19日法・Pub.L.94-553・90 Stat. 2541)(改正されたもの) (注5) 1998年「音楽ライセンスの公正に関する法律」(Pub.L.105-298・112 Stat. 2830・第105回議会、第2会期(1998年)) 2.2 106条の現行条文のうち、本件に関連する部分は、次のとおりである。 「106条 著作物に関する排他的権利 107条から120条までに従うことを条件として、この編(title)における著作権の保有者は、以下のことを行いかつ許諾する排他的権利を有する。 … (4) 文芸、音楽、演劇及び舞踊の著作物並びにパントマイム、映画その他の視聴覚著作物の場合、著作物を公に実演すること。 (5) 文芸、音楽、演劇及び舞踊の著作物並びにパントマイム、絵画、図画または彫刻の著作物の場合(映画またはその他の視聴覚著作物の個々の映像を含む。)、著作物を公に展示すること。 …」(注6)(注7) (注6) 証拠番号米国15(b)号のとおり。 (注7) 米国著作権法101条は、種々の定義を規定しているが、次のものが本件に関連する(TRIPS協定63条2項に基づいて、米国からTRIPS理事会に通報されている。1996年3月25日付けWTO文書IP/N/1/USA/1を参照。)。 「著作物の『実演(perform)』とは、直接または何らかの装置若しくはprocessによって、recite、render、play、dance、またはactすることをいう(映画またはその他の視聴覚著作物の場合は、場面の映像を見せまたは付随する音声を聴取可能にすること)。」 「著作物の『公の(publicly)』実演または展示とは、 (1) 公衆に開かれた場所または通常の家族及びその社交的知己の範囲を超える実質的人数(substantial number)の者が集まった場所において実演または展示すること、または、 (2) 著作物の実演または展示を(1)で特定した場所または公衆に対し、何らかの装置若しくはprocessによって送信または伝達すること(その実演または展示の受け手が、それを同一の場所で受けるかまたは別個の場所で受けるか、同時に受けるかまたは異なった時点で受けるかを問わない。)」 「実演または展示を『送信する(transmit)』とは、実演または展示を映像または音声が送られた場所から離れて受領するための何らかの装置またはprocessによって伝達することである。」 2.3 110条(5)の現行条文のうち、本件に関連する部分は、次のとおりである(注8)。 (注8) 証拠番号米国15(a)号のとおり。改正された110条(5)についての米国政府の公式な統合テキストは存在しない。 「110条 排他的権利の制限: 特定の実演及び展示の例外 106条の規定にかかわらず、次のことは著作権の侵害にならない。 … (5)(A) サブパラグラフ(B)に規定されたところを除き、著作物の実演または展示を含む送信の伝達を、家庭で普通に使用される種類の1台の受信装置によって公衆が受信すること。ただし、以下の場合を除く。 (A) 送信を視聴するために、直接料金が徴収される場合、または (B) 上記のように受信された送信が更に公衆に送信される場合。 (B) 以下の条件を満たす限りにおいて、一般公衆の受信が意図され、連邦通信委員会の免許を得たラジオまたはテレビ放送局(視聴覚送信の場合は、ケーブル・システムまたは衛星放送会社)から流された、非演劇的音楽著作物の実演または展示を含む送信または再送信の、施設による伝達。ただし、 (i) 飲食施設以外の場合、伝達がされる施設面積が合計2,000平方フィート未満(顧客駐車場以外の目的に使用しない場所を除く。)であるか、または伝達がされる施設面積が合計2,000平方フィート以上(顧客駐車場以外の目的に使用しない場所を除く。)であって、 (T)実演が聴覚手段のみでされる場合、実演が合計6個以下の拡声機(そのうち1部屋または隣接する戸外に設置される拡声機は4個以下)によって伝達されるか、または、 (U)実演または展示が視聴覚手段による場合、実演または展示のいかなる視覚部分も合計4個以下の視聴覚機器(そのうち1部屋に設置される視聴覚機器は1個以下で、いかなる視聴覚機器も画面対角線の長さが55インチを超えない。)によって伝達され、実演または展示のいかなる聴覚部分も合計6個以下の拡声機(そのうち1部屋または隣接する戸外に設置される拡声機は4個以下)によって伝達されること。 (ii)飲食施設の場合、伝達がされる施設面積が合計3,750平方フィート未満(顧客駐車場以外の目的に使用しない場所を除く。)であるか、または伝達がされる施設面積が合計3,750平方フィート以上(顧客駐車場以外の目的に使用しない場所を除く。)であって、 (T)実演が聴覚手段のみでされる場合、実演が合計6個以下の拡声機(そのうち1部屋または隣接する戸外に設置される拡声機は4個以下)によって伝達されるか、または、 (U)実演または展示が視聴覚手段による場合、実演または展示のいかなる視覚部分も合計4個以下の視聴覚機器(そのうち1部屋に設置される視聴覚機器は1個以下で、いかなる視聴覚機器も画面対角線の長さが55インチを超えない。)によって伝達され、実演または展示のいかなる聴覚部分も合計6個以下の拡声機(そのうち1部屋または隣接する戸外に設置される拡声機は4個以下)によって伝達されること。 (iii)送信または再送信を視聴するために、直接料金が徴収されないこと。 (iv)送信または再送信は、それが受信された施設から更に送信されないこと。 (v)公に実演または展示することについて、送信または再送信が著作物の著作権保有者によって許諾されていること。 …」(注9) (注9) 音楽ライセンスの公正に関する法律205条は、1976年著作権法110条を改正し、新たな110条(5)(B)に関連する、次のものを含む種々の定義規定を盛り込んだ。 「『施設(establishment)』とは、主要な目的が物の販売または役務の提供であり、非居住部分の合計面積の半分以上がその目的に使用される、一般公衆に開かれた店舗または類似の商業的な場所であって、非演劇的音楽著作物が公に実演されるものである。」 「『飲食施設(food service or drinking establishment)』とは、公衆または顧客が食事または酒類を提供されることを主要な目的として集まり、非居住部分の面積の半分以上がその目的に使用される、レストラン、宿屋、バー、居酒屋その他類似の商業の場であり、非演劇的音楽著作物が公に実演されるものである。」 「施設の『合計面積(gross square feet of space)』とは、顧客をもてなすために使用される当該施設のすべての内部面積及び付随する戸外の場所であり、季節的な利用をするかどうかを問わない。」 2.4 110条(5)のサブパラグラフ(A)は、1976年著作権法110条(5)にもともとあった「ホームスタイル」例外の条文をほぼそのまま再度規定したものである。110条(5)が1998年に改正された際、ホームスタイル例外は、新しいサブパラグラフ(A)に移され、「サブパラグラフ(B)に規定された場合を除いて」という文言が条文の冒頭に付加された。 2.5 1976年著作権法に伴って出された下院報告書(1976年)は、もともとの110条(5)は、「あらゆる類型の著作物の実演及び展示に適用され、その目的は、公の場所で、通常は個人使用のために公衆に販売される普通のラジオまたはテレビ受信装置のスイッチを入れたにすぎない者を著作権侵害の責任から免除することにある。」と説明している。「この条項の基本的な正当化理由は、公の場で通常の受信機のスイッチを入れることによる送信の二次使用はあまりに些細であり、かつ最小のものなので、何ら責任を負わせるべきではないということにある。」「この条項は、経営者が商業的『音響システム』を設置し、または標準的な家庭用受信機に高度な若しくは広範な増幅装置を付加することによって、商業的な音響システムと同等のものに変更する場合に、責任を課するものである。」(注10)その後の会議報告書(1976年)は、正当化理由について、法の意図は、「商業的バックグラウンド音楽業者との契約を正当化するのが実際的でないような、十分な規模を有しない」小さな商業施設を例外とすることにあると説明した(注11)。 (注10) この引用は、証拠番号米国1号にある下院司法委員会の報告書(H.R.Rep.No.94-1476、第94回議会、第2会期87(1976年))からのものである。この報告書は、「特定の事案において考慮すべき要因は、規模、物理的性状、施設内の送信が視聴可能とされる場所の騒音レベル、受信装置が実演の視聴の質を高めるために変更ないし補強された程度等である。」と付加している。 (注11) 証拠番号米国2号にある下院司法委員会・裁判所及び知的財産小委員会の会議報告書(H.R.Rep.No.94-1733、第94回議会、第2会期75(1976年)) 第1提出書面において、欧州共同体と米国は、それぞれ、もともとのホームスタイル例外の背景及びその後の適用についての見解を表明した。 2.6 この例外の適用を考慮するための要因は、ほとんど、米国最高裁判所が1976年著作権法の議会通過の直前に判断した事件の事実関係に基づいている。エイケン(Aiken)事件(注12)で、最高裁は、小さなファストフード・レストランの所有者は、天井に4個のスピーカーを持つラジオで音楽を流すことについて、責任を負わないと判断した。その店の規模は、1,055平方フィート(98u)で、そのうち620平方フィート(56u)が公衆に開かれていた。下院報告書(1976年)は、エイケン事件の事実関係は、当初の110条(5)が許容する最大限度を示したものと説明した。この例外は、「ホームスタイル」例外として知られるようになった。 (注12) Twentieth Century Music Corp. v. Aiken, 422 U.S. 151 (1975) 2.7 前記パラグラフの第1番目の引用に示されているように、ホームスタイル例外は、もともとすべての類型の著作物の実演について適用することが意図されていた。しかしながら、現在のサブパラグラフ(B)が「非演劇的音楽著作物の実演または展示」に適用されるとされていることから、当事国は、反対解釈(a contrario interpretation)により、サブパラグラフ(A)に付加された「サブパラグラフ(B)に規定されている場合を除き」という冒頭の文言は、サブパラグラフ(A)の適用を「非演劇的音楽著作物」以外の著作物に限定する効果を有するとすることに合意した(注13)。 (注13) 米国(パラグラフ3)及び欧州共同体(パラグラフ7)の各第2提出書面を参照。 2.8 パネルは、サブパラグラフ(B)の「非演劇的音楽著作物」という表現は、オペラ、オペレッタ、ミュージカルまたはその他の類似の演劇的著作物の一部が、演劇的な文脈で実演された場合の音楽の伝達をその適用から排除するものであることが、当事国の共通理解であると認める。その他の全ての音楽著作物は、この表現の適用範囲に含まれる。そこには、演劇著作物から取り出された個々の歌が演劇的文脈から離れて実演されるような場合が含まれる。サブパラグラフ(B)は、したがって、例えば、ミュージカルから取り出した個々の歌がラジオで流される場合に適用されることになる。その結果、サブパラグラフ(A)の機能は、サブパラグラフ(B)の適用範囲外の音楽著作物に対するものに限定されることになる。例えば、オペラのために書かれた音楽を演劇的に流す放送による伝達である(注14)。 (注14) 「非演劇的音楽著作物」の概念は、1998年改正法によって110条(5)に導入された。しかし、この概念は、1976年著作権法にも、その他の種々の公の実演権(110条(2)、(3)、(4)、(6)、(7))の制限並びにレコード(115条)、ジュークボックス(116条)及び非商業的放送(118条)の製作に関する条項に使用されている。これらはすべて非演劇的音楽著作物に適用され、演劇的著作物には適用されない。 2.9 1998年改正法は、110条(5)に新たなサブパラグラフ(B)を付加した。我々は、記述を簡潔にするため、以下これを「ビジネス」例外という。これは、一定の条件の下に、施設が、一般公衆による受信が意図され、連邦通信委員会から免許を受けたラジオまたはテレビ放送局から(または視聴覚送信の場合、ケーブルシステムまたは衛星放送会社から)発せられた非演劇的音楽著作物の実演または展示を内容とする送信または再送信の伝達を例外とするものである。 2.10 ビジネス例外の受益者は、2個のカテゴリーに分けられる。飲食施設以外の施設(「小売施設」)及び飲食施設である。それぞれのカテゴリーにつき、一定の制限規模未満の施設が、使用する装置の種類にかかわらず、例外とされる。制限規模は、小売施設が合計2,000平方フィート(186u)であり、レストランが合計3,750平方フィート(348u)である。 2.11 上院司法委員会が用意した1995年11月の調査によれば(注15)、議会調査局(以下「CRS」という。)は、食事施設の16% 、飲酒施設の13.5%、小売施設の18%がエイケン氏が経営するレストランの面積(すなわち1,055平方フィート)未満であると見積もった(注16)。さらに、CRSは、食事施設の65.2%、飲酒施設の71.8%が当時3,500平方フィートの制限未満、小売施設の27%が1,500平方フィートの制限未満であろうと見積もった。 (注15) 証拠番号EC16号 (注16) エイケン事件は、前記パラグラフ2.6に説明されている。 2.12 ダン・アンド・ブラッドストリート・インコーポレイテッド(Dun & Bradstreet, Inc.)(以下「D&B」という。)は、1999年に、アメリカ作曲家・作者・出版社協会(ASCAP)からCRSの調査を1998年のデータ及び1998年改正法の基準に基づいて改訂することを要請された。その調査において、D&Bは、食事施設の70%、飲酒施設の73%が3,750平方フィートの制限未満、小売施設の45%が2,000平方フィートの制限未満であると見積もった(注17)。 (注17) ECの第1提出書面パラグラフ49を参照。ECは、パラグラフ2.11及び2.12に引用したパーセントの数字は、ホテル、金融機関の店舗、不動産仲介業者及びその他の種類のサービス提供者といった例外扱いされる施設を考慮していないとしている。 2.13 全国レストラン協会(NRA)がその加入資格に関して行った調査は、テーブルを有するレストラン(座ってウェイターのサービスが受けられる店)の加盟店の36%、クイックサービスレストランの加盟店の95%が3,750平方フィート未満であることを示している(注18)(注19)。 (注18) パネルからの質問9に対する米国からの回答及び秘密証拠番号米国18号を参照。 (注19) パラグラフ2.11及び2.13に引用されたパーセントの数字と本件との関連性は、集中管理機関(collective management organizations)からライセンスを得ている施設の数及びそれら機関による徴収額について当事国が提供したその他の情報及び見積りと共に、この報告書のセクションYで論ぜられる。 2.14 施設の規模が上記パラグラフ2.10にいう制限を上回る場合(最大規模の定めはない。)、例外規定は、当該施設が使用する装置について設定された制限を超えない場合に限って適用される。その装置についての制限は、聴覚に関する実演、視聴覚に関する実演及び展示ごとに異なる。装置の制限についての定めは、それぞれの制限規模を超える小売施設及びレストランにつき同一である。 2.15 110条(5)のサブパラグラフ(A)及び(B)が適用される送信の種類には、地上波(over the air)または衛星による最初の放送、地上的手段(terrestrial means)または衛星による再放送、最初の放送のケーブルによる再送信、及び最初のケーブル送信またはその他の有線による送信を含む(注20)。この条項は、アナログ送信とデジタル送信を区別していない。 (注20) パネルからの質問5に対する米国の回答を参照。 2.16 110条(5)は、CD若しくはカセットテープのような録音された音楽または音楽のライブ実演については適用されない。 2.17 音楽著作物の著作権の保有者(作曲者、作詞者及び音楽出版者)は、通常、その著作物の非演劇的な公の実演のライセンスを集中管理機関(「CMO」または実演権機関)に委託する。この分野における米国での主要3CMOは、ASCAP、ブロードキャスト・ミュージック・インコーポレイテッド(Broadcast Music, Inc.)(BMI)及びSESAC・インコーポレイテッドである。CMOは、音楽著作物の公の実演を、代理している個々の権利者のために、小売施設及びレストランのような音楽の使用者にライセンスし、それら使用者から許諾料の支払を受け、収入をロイヤルティとしてそれぞれの権利者に分配する。CMOは、通常、代理している権利者の著作物をライセンスするのための相互契約を他の国のCMOと締結する。収入は、個々の権利者に当該権利者を代理しているCMOを通じて分配される。上記の3米国CMOは、「演劇的」音楽著作物を非演劇的に流すこと(renditions)を含む音楽著作物の非演劇的な公の実演をライセンスする。 |
V. 当事国が求めた判断と勧告3.1 欧州共同体は、米国著作権法110条(5)サブパラグラフ(A)及び(B)に規定された例外は、米国のTRIPS協定上の義務に違反すると主張する。特に、欧州共同体は、それら米国の措置は、ベルヌ条約(1971年)11条(1)(ii)及び11条の2(1)(iii)と一体となったTRIPS協定9条1項に整合せず、ベルヌ条約(1971年)またはTRIPS協定上明示的または黙示的に許容されたいかなる例外または制限によっても正当化されえないと主張する。欧州共同体の見解によれば、それらの措置は、著作権保有者の正当な権利を害する結果をもたらし、欧州共同体の権利を無効化し、侵害する。3.2 欧州共同体は、パネルに対し、米国がベルヌ条約(1971年)11条の2(1)(iii)及び11条(1)(ii)と一体となったTRIPS協定9条1項の義務に違反したと判断し、米国にその国内法をTRIPS協定上の義務に整合させるよう勧告することを求めた。 3.3 米国は、米国著作権法110条(5)はTRIPS協定上の義務に完全に整合していると争った。ベルヌ条約(1971年)の実体規定をその一部としたTRIPS協定は、加盟国に、著作権保有者の排他的権利に些細な制限(minor limitations)を付することを許容している。TRIPS協定13条は、そのような制限または例外が適切かどうかを判定するための基準を定めている。110条(5)の内容をなす例外は、13条の基準を満たすものである。 3.4 米国は、パネルに対し、米国著作権法110条(5)サブパラグラフ(A)及び(B)はいずれもTRIPS協定13条及びベルヌ条約(1971年)の実体的義務の基準に合致していると判断することを求めた。したがって、米国は、パネルに対し、本件紛争における欧州共同体の請求(claim)を棄却するよう求めた。 W. 当事国及び第三国の主張並びにWIPOの国際事務局から提供された事実関係についての情報4.1 当事国及び第三国の主張は、パネルに提出された書面に述べられている(欧州共同体のものは添付書類1、米国のものは添付書類2、第三国のものは添付書類3を参照)。パネル議長からWIPOの事務局長への書簡及びこれに対するWIPOの事務局長の回答は、添付書類4に掲げられている(注21)。(注21) 提出書面に添付された証拠及びWIPOの事務局長からの書簡の附属書は、この報告書に添付されていない。 X. 中間審査(Interim Review)5.1 欧州共同体と米国は、2000年5月26日、DSU15条2項に従い、パネルに対し、2000年4月14日に当事国に配布された中間報告書の細部について、再検討するよう要請した。欧州共同体も米国も、パネルと当事国とのさらなる会合の開催は求めなかった。米国は、2000年5月1日付けの書簡で、ECのしたコメントのいくつかについて言及した。5.2 欧州共同体は、いくつかの文言の手直しについてコメントし、パネルの理由付けについて何点か明確化を求めた。 (a) 欧州共同体は、「当事国が求めた判断と勧告」についてのセクションVと請求(claim)についてのサブセクションW.Aが重複していると見ている。我々は、両方のセクションに当事国の主要な請求を反映させるのは有益であると考える。 (b) 「先決問題」についてのサブセクションY.Bに関し、欧州共同体は、ASCAPを代理する法律事務所から米国通商代表に宛てられた書簡(写しが添付された。)の取扱いについてのパネルの理由付けを簡潔にすることを提案した。我々は、パラグラフ6.8の文言について、修正をほどこした。 (c) 欧州共同体の提案に従い、我々は、中間報告書のパラグラフ6.27の最終文を削除した。 (d) パラグラフ6.41の最終文についてのECのコメントに関しては、我々は、同一の対象事項についての一連の条約相互間の関係に関するウィーン条約30条は、本件には関係がないと示すことは有益であると考える。 (e) 我々は、マイナー・エクセプションズ原則(minor exceptions doctrine)は主としてde minimisな利用に関するものであるとするパラグラフ6.93の説示を言い替える必要はないと考える。 (f) 欧州共同体の提案に従い、我々は、1998年のデータに基づき1999年に用意されたダン・アンド・ブラッドストリート調査のことを1999D&B調査ということに同意する。 (g) パラグラフ6.140の第2文に関し、欧州共同体は、一貫してクレアの店(Claire's Boutique)及びエジソン兄弟(Edison Bros.)事件をホームスタイル例外が狭く限定されておらず、広く全国展開されている会社に適用されていることの証拠として言及していると強調する。我々は、同文は、ECの主張に対する我々の理解を表現したものと示すことにより、これを明確化する。 (h) 欧州共同体は、我々にパラグラフ6.214の理由付けを明確にするよう求めた。我々は、同理由付けは十分に明確であると考える。 (i) 我々は、欧州共同体が提案するような、パラグラフ7.1(a)の判断を、「米国著作権法110条(5)サブパラグラフ(A)」の語の前に「演劇的音楽著作物のみを対象とする」の語を加える変更には同意しない。 5.3 米国のコメントはほとんど文言の手直し及び事実に関するものである。 (a) 我々は、いくつかの文言上の手直しの提案を受け入れ、認定判断のパラグラフ6.97、6.205及び6.260に若干の文言の変更を加えた。 (b) 我々は、米国の求めに応じ、証拠番号米国17号及び米国18号は、米国がそれらを秘密のものとして取得したため、「秘密証拠」として引用することに同意した。 (C) さらに、米国の提案に従い、我々は、脚注127の引用を削除し、質問に対する米国の回答から得た特定の事実情報を脚注173に挿入し、最新の情報を脚注188に加えた。 Y. 認定判断(findings)A. 請求(Claims)6.1 先に述べたとおり、欧州共同体は、米国著作権法110条(5)サブパラグラフ(A)及び(B)に規定された例外は、米国のTRIPS協定上の義務に違反していると主張し、パネルに対し、米国はベルヌ条約(1971年)11条の2(1)(iii)及び11条(1)(ii)と一体となったTRIPS協定9条1項上の義務に違反していると判断し、米国にその国内法をTRIPS協定上の義務に整合させるよう勧告することを求めた。6.2 米国は、米国著作権法110条(5)はTRIPS協定上の義務に完全に整合しているとして争い、パネルに対し、米国著作権法110条(5)サブパラグラフ(A)及び(B)はいずれもTRIPS協定13条及びベルヌ条約(1971年)の実体的義務の基準に合致していると判断することを求めた。したがって、米国は、パネルに対し、本件紛争における欧州共同体の請求を棄却するよう求めた。 B. 先決問題(Preliminary Issue)6.3 この紛争の実体的側面を審査する前に、我々は、ASCAPを代理する法律事務所から米国通商代表(以下「USTR」という。)に宛てられた書簡(パネルに写しが提出された。)をどのように扱うかについて検討する。6.4 USTRは、ASCAPを代理する法律事務所に宛てられた1999年11月16日付けの書簡(注22)によって、パネルから米国に発せられた質問9ないし11(同書簡に添付(注23))に関して、ASCAPに情報を求めた。同法律事務所は、USTRに1999年12月3日付け書簡によって回答した。同事務所は、USTRに宛てられたこの書簡の写しをパネルに送付した。パネルは、この写しを1999年12月8日に受領した。パネルは、この書簡を両当事国に伝達し、希望するのであればこれについてコメントするように促した。 (注22) 証拠番号米国19(a)号。USTRは、同様の書簡をBMIにも送付した(証拠番号米国19(b))。 (注23) これらの質問とこれに対する米国の回答は、この報告書の添付書類2.3に含まれている。 6.5 米国は、1999年12月17日付けの書簡において、特に、その法律事務所作成の書簡に示された立場から距離を取り、米国の見解では、同書簡は基本的にはいまだどちらの当事国からも提供されていないような事実関係のデータを提供しておらず、パネルにとって証明力が少ないものであると強調した。しかし、米国は、一般論として、私人がその見解をWTO紛争処理パネルに知らせる権利を支持している。 6.6 欧州共同体は、2000年1月12日付けの書簡において、その書簡について、実体的コメントはないと述べた。欧州共同体は、ASCAPの本件に対する貢献を評価するものの、同書簡は既に当事国が提出したところに何ら新たな要素を加えることはないと考えた。欧州共同体は、「米国―ある種のえび及びえび製品の輸入禁止」(注24)事件報告書における上級委員会のDSU13条の解釈を引用しつつ、パネルの権限は紛争に関係のない個人または組織からの事実情報及び技術的助言を考慮することに限られ、したがって、パネルがそれら個人または組織の法的主張または法的解釈を受け入れる可能性を含まないとも答えた。 (注24) 1998年11月6日に採択された「米国―ある種のえび及びえび製品の輸入禁止」に関する上級委員会報告書(WT/DS58/AB/R、パラグラフ99ないし110) 6.7 DSU13条によれば、「各パネルは、適当と考えるいかなる個人または機関からも情報及び技術的助言を求める権利を有する。」我々は、「米国―えび」事件において上級委員会が、パネルが要求しなかった情報の取扱いに関して、「情報を求める権限は、パネルが要求がないのに提供された情報を受領することを禁ずることと同じことではない。パネルは、パネルがそれを求めたものであるかどうかを問わず、提供された情報及び助言を受け入れ、考慮するか排斥するかの裁量的権限を有する。」と論じたことを再確認する(注25)。 (注25) 「米国―えび」事件の上級委員会報告書(前記引用、パラグラフ108) 6.8 本件において、我々は、パネルに写しが提出されたASCAPを代理する法律事務所からUSTRへの書簡中の情報を直ちに排斥することはしない。我々は、上級委員会が、要求しない情報を受け入れるパネルの権限を認めたことを再確認する。しかしながら、我々は、この書簡が既に両当事国が提出した情報をほとんど繰り返すものであるとの両当事国が表明した見解に賛同する。我々は、また、この書簡がパネルに対して述べられたものでなく、単に写しが提出されたにすぎないことを強調する。したがって、この書簡の写しを拒否はしないものの、我々は、理由付けまたは認定判断するについてこれに依拠しなかった。 [以下次回] |
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