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アジア投資関連制度ニュース7月号より


メキシコによる初の対中WTO提訴の可能性

 2002年7月10日、メキシコのルイス・エルネスト・デルベス経済相は、中国の輸出企業に対し同国が与えている協定違反の疑いのある補助金のため、メキシコは、中国に対しWTOへの協議の申し入れを検討していると発表した。この紛争は、昨年12月の中国加盟以来、最初の中国に対するケースとなる可能性がある。メキシコの政府関係者によると、中国は、外国投資を自国に誘致するため、これらの貿易歪曲的な慣行を行い、メキシコへの外国投資を不利にしているという。
 WTOに協議を申し入れるか否かを評価するに当り、メキシコ政府は、企業はなぜ中国に移転したか、またはなぜそれを検討しているのかに関する情報を求め、5,000社の企業に対し調査を行っている。同政府は、中国がそのような違法な補助金を与えているのか否かに関する証拠を探している。
デルベス経済相は、メキシコがWTOに提訴すると決定し、勝訴した場合、報復としての制裁は、中国からメキシコへのみならず、中国から全てのWTO加盟国への輸出に適用されるべきであると述べている。

 

T.メキシコ、中国に初のWTO提訴を検討

 メキシコは、中国は外国投資を誘致するため不公正な補助金を与えていると申し立て、中国を世界貿易機関(WTO)の紛争解決機関に提訴するとの脅しをかけている。この申立ては、中国が2001年12月にWTOに加盟して以来最初の申立てとなる。
 メキシコは、中国政府がWTO規則に違反してクレジット及び税控除を付与しているという証拠を得ることができた場合、6カ月から1年以内にWTOに申し立てる意向である。メキシコは、中国の投資インセンティブの一部は、中国に設立された輸出企業への隠れた、または違法な輸出補助金となっている可能性があると考えている。メキシコ政府の情報筋によると、中国の措置は中国に設立された企業の競争力に不公正に利益を与え、メキシコの企業を不利にしているとのことである。
 メキシコのルイス・エルネスト・デルベス経済相によると、中国の投資インセンティブが原因となってメキシコに設立されたいくつかの企業が事業を中国に移転することとなり、メキシコにおける失業が増加したという。
 デルベス経済相は、メキシコがこの問題をWTOに持ち込み、勝訴した場合、報復としての制裁は、中国からメキシコへの輸出のみならず、中国から全てのWTO加盟国への輸出に適用されるべきであると主張している。
 損害の証拠を得るため、メキシコ政府は、なぜメキシコでの事業を維持することにしたか、または、なぜ事業を中国に移転することにしたかの理由に関する情報を求めて5,000社の企業に対し調査を行っている。政府は、メキシコから事業を移転するか否かを検討する際に企業が考慮している要素に特に関心を持っている。この調査は、8月にはまとめられる。
 メキシコ政府は、中国政府は輸出企業を自国に誘致するためWTOに不整合なインセンティブを提供しているか否かを判断するためにこの調査の結果を使用する意向である。さらに、メキシコは、このような違法の疑いのある輸出補助金は中国の輸出の価格を下げる効果を持っているか否かに関心を有している。メキシコはその後、中国との紛争を正式にWTOに持ち込むか、または二国間の紛争とするかを決定する。

U.メキシコのマキラドーラ産業は特に中国との競争に弱い

 メキシコの全国マキラドーラ産業評議会(CNIME)は、中国は、賃貸料及び地租の免除、クレジット、並びに土地そのものさえも提供することにより、自国に設立された輸出企業に不公正な補助金を与えていると主張している。これに反して、メキシコは、自国に設立された輸出企業に対し、訓練及び一部の輸入品に関する関税を引き下げるまたは撤廃するプログラムなど、限られた投資インセンティブしか与えていない。CNIMEは、マキラドーラ産業は、これらの中国の政策に特に影響を受けており、またこれに抵抗力がないと主張している。
 CNIMEのカルロス・パレンシア事務局長によると、メキシコのマキラドーラ産業の競争力は、税制度における確実性の不足、過剰な規制、警備費用の増加(特にメキシコで勤務する外国の管理職者の警護)に影響を受けているという。同事務局長は、メキシコ政府は、ビジネス環境全般を向上させるためマキラドーラ産業により大きな法的確実性を与え、投資に関するインセンティブを増加させなくてはならないと主張している。産業界の代表は現在、外国企業がメキシコでの事業を維持するよう奨励するインセンティブの類型に関して経済省及び財務省と議論をしている。
 CNIMEによると、2001年以来、メキシコではおよそ700社のマキラドーラ企業および300〜500の生産ラインが事業を閉鎖し、またメキシコで新たに事業を開始したマキラドーラ企業は350社しかないという。2000年10月以降、メキシコのマキラドーラ産業では、35万人の雇用が失われた。現在、メキシコのマキラドーラには100万人の雇用を擁する3,320社のマキラドーラ企業がある。
 中国の政策がメキシコのマキラドーラ産業に及ぼす影響に加え、マキラドーラ産業は、最近の米国経済の減速、及び通貨ペソの弱体化にも影響を受けている。これらの不利に関わらず、CNIMEは、同産業が今年後半には回復すると予想している。

  メキシコによる中国に対する最初のWTO紛争による脅しは、両先進開発途上国の間の熾烈な競争を考慮すれば特に驚くべきものではない。メキシコは、中国とのWTO加盟交渉の終結が最後になった国でもあり、終結させたのはかなりの数の中国に対するAD命令を維持する権利を得た後になってやっとのことであった。
 メキシコは、中国のWTO加盟後明らかに加速した潮流であるメキシコ企業および外国投資家の中国への移転を防ぎたいと考えている。しかしながら、一部の企業がメキシコから中国への移転を選択したからといって、メキシコに代償が支払われる論拠は現行のWTO協定には存在していない。パネルが設立された場合、このパネルは、中国政府による違法な輸出補助金の個別の申立てを審理することとなる。中国がシロと判定されれば申立ての撤回が勧告され、同国がクロと判定されれば対抗措置が認められる。
 メキシコの中国に対する申立ては、WTO紛争解決活動としては典型的なものではないが、この段階では、法律上のイニシアティブというより政治的意図による戦略であると思われる。WTO紛争を持っての脅しは、国内及び外国の企業に中国への事業移転を考え直させることになりうる。実際、メキシコがWTOまたは二国間交渉で中国に違法の疑いがある補助金の付与を止めさせることができた場合、中国によって約束された投資インセンティブは削減されることになる。デルベス経済相が警告したように、メキシコの中国に対する紛争は、メキシコ並びに中国の輸出に脅威を感じているかもしれない他のWTO加盟国への中国からの輸出に対する相殺関税という結果になる可能性があるため、広範囲にわたる影響を持つ可能性がある。
 メキシコのこのような申立ての根拠は、投資規則に関するWTOでの交渉を立ち上げる見込みを良くするか、あるいは悪くするかというのは、関心の高い問題である。メキシコの申立ては、この問題に深入りすることの危険を示していると一部のオブザーバーは考えているようである。中国は、補助金協定の下で自らを弁護しなくてはならなくなるかもしれないが、同国は投資に関してWTO以外の規律の対象となっておらず、WTOにおいて投資に関するより厳格な規律を支持することはさらに考えられない。メキシコおよび他の中南米諸国は、WTOにおいて投資インセンティブに関する深刻な議論を起こそうとしているが、アジア諸国や一部の主要なOECD加盟国といった反対派(これらは全てある程度の投資インセンティブを提供している)に阻まれてきている。これに照らして、様々なインセンティブ・プログラムを通じて投資を誘致する中国の能力を考慮すると、同国は、差し迫った脅威と見られている。中国を警戒するに加えて、メキシコは、以下2つのシグナルを他の国へ送ろうとしていると考えられる。第一に、中国がWTOに加盟した今、この問題を無視し続けることはできない。これは、中国に近隣するアジア諸国に訴えることの大きいであろうポイントである。第二に、投資インセンティブに関する真剣な議論または交渉が可能でない場合、これに至るには、補助金協定及び紛争解決を通じるという他の方法がある。言いかえると、メキシコは、特に中国が投資の面でより大きな脅威を引き起こしている今、投資交渉の反対者にカンクーンにおける次回WTO閣僚会議の際に交渉を立ち上げるよう圧力をかけていると考えられる。
 現段階では、中国がWTOに不整合な補助金を与えているという申立てを確かなものにするに足る証拠をメキシコ政府が集めることができるかは定かでない。予見可能な将来に、投資インセンティブの多くの形態がWTO規則及び規律の枠を越えることとなる。こういう時であるから、メキシコの紛争をもっての脅しは、法的な議論の根拠があまり強固でないとしても、中国への政治的な抑止効果を持つ可能性がある。

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