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アジア投資関連制度ニュース5月号より


中国のWTO約束遵守に関するUSTRによる評価

 ジェフリー・ベーダー中国担当USTR代表補は2002年3月末にワシントンD.C.で開催されたアジア・ソサエティーの会合で、中国のWTO約束実施に関して非公式の会見を行った。氏は、中国の約束遵守努力に関する「成績表」を発行し、進展が限定的であり、且つ新たな問題があることを指摘した。
  • サービス:保険サービス分野には、障害が残っている。国際クーリエ/速配サービスに関する新規則が煩雑である。流通サービス分野に問題が見込まれる。
  • 農産品/工業品:農産品及び工業品に関する関税率割当の分配の遅延;しかしながら、新たな関税率表の公表は迅速であった。
  • 透明性:規則及びコメントの機会において透明性が向上した;しかしながら、新たな規則は問題をはらんでいる。
 また、ベーダー次官は、厳格なモニタリング、省庁間協力及び官民協力など、中国のWTO約束遵守を確保するための米国のアプローチについても論じた。

 

1.WTO加盟により、中国は逆行不可能な改革路線へ

 ベーダー代表補は、前職の国務省米国国家安全保障会議では、アジア・大洋州地域の政治及び安全保証に焦点を置いており、貿易はそれほどではなかったことで話を切り出した。同氏は、中国のWTO加盟を終結させるため、昨年3月にゼーリックUSTR代表によってUSTR代表補に任じられたことに言及した。ベーダー代表補は、昨年5月8日に現職に就いて(発表の後、同代表補は5月中に現職を離れるであろうと述べた)、昨年9月の未解決の米中二国間交渉の終結、10月の上海におけるAPEC閣僚会議、そして最終的には12月11日の中国のWTO加盟に中心的な役割を果した。
 ベーダー代表補は、10年前には中国と台湾の加盟は、特に中国のGATT加盟の試みが1989年6月の天安門事件のため失敗した後にあって「封じ込められて」いたことに注意を促した。その結果、中国および台湾双方の加盟は、より深刻な問題にとらえられるようになり、1995年のWTOの創設の後にはより厳格な要件を課せられるようになった。中国の現指導部(間もなく交代する)にとって、WTO加盟を追及する決定は、「中国の将来にかかる重要な決定」であった。
 同代表補は、中国のWTO加盟が米中関係に持つ4つの主要な潜在的重要性を指摘した。
  • 改革プロセスの勝利‐WTOに加盟すると決定したことにより、特に最近2、3年間は、中国は逆行不可能な改革路線を追求せざるを得なくなった。
  • PNTR(恒久的通常貿易関係)−中国にPNTRを付与する法律は、議会において毎年行われるNTR/MFN(最恵国待遇)の審議に終止符を打った。ベーダー氏は、毎年の審議はいらだたしく、時間の浪費であると述べた。
  • 市場アクセス‐中国の物品及びサービスの市場アクセスを自由化する広範な約束は、米国企業に利益を与えることとなるが、監視が必要である。
  • 経済的枠組の基盤‐ベーダー代表補は、より高い透明性及びより評価可能な経済的枠組を予想している。例えば、規則の草案を発行し、コメント提出期間を設けることで(以前の会計サービス及び貿易権に関する状態を考慮すると)、中国は大きな一歩を踏み出しており、また、中国の経済的基盤の発展が促進されるであろう。
 また、ベーダー代表補は、中台関係は通商関係が正式なものになるにつれ、徐々に向上して行くであろうとも述べている。同代表補は、1987年以来、米国は中台通商関係の向上を支持してきたとしている。にもかかわらず、台湾は制限を維持するための「安全保証のための例外」に関するWTOの規定を行使すると予想されている。同代表補は、台湾は4,000品目以上の中国製品に関する輸入禁止措置を維持していることを指摘した。

2.米国、中国の実施努力をモニター

 ベーダー代表補は、米国及び大半の国々は、中国は圧力を掛けられないとWTO約束を効果的に実施しないであろうと考えていると述べている。しかしながら、中国側は「異口同音に」中国経済は「外国が持つ競争力の前では脆弱である」ため、実施は困難になるであろうと主張している。
 ベーダー代表補は、中国の約束実施を監視する米国による努力を以下のように概説した。
(1)全ての約束の実施‐中国の約束は、全て緊密な監視を受ける。
(2)貿易政策担当者委員会(TPSC)の会議‐TPSCは、毎月省庁横断的会議を開き、中国の約束実施努力を監視する。この会議は、USTRによって主催され、商務省、国務省、財務省、農務省、労働省、並びに特許商標局などが参加する。
(3)民間分野への協力要請‐米国の諸機関は、実業界などと協調し、中国の実施努力の「現状」を審査する。ベーダー代表補は、政府には中国の規則草案を翻訳及び分析する人員がないことに言及し、これに関する民間部門からの支援を求めた。
 ベーダー代表補は、米国は、約束の実施に向け、二国間及び多角的アプローチ両方を追及すると説明した。二国間アプローチでは、在北京米国大使その他の担当者が対外貿易経済合作部(MOFTEC)、国家経済貿易委員会(SETC) その他の中国の機関に関する具体的な懸念の指摘を頻繁に行うこととなる。
 多角的アプローチでは、米国は他の国々及び中国において近接する利害を有する他の国々及びグループ(農産品輸出業者のケアンズ・グループなど)と協力する。また、米国は、経過的審査メカニズム(TRM)を通じて、WTOで懸念事項を指摘することとしているが、このメカニズムは、適切なWTO機関において、中国の実施努力を独占的に扱うべく設立されたものである。さらに、中国が約束を実施できない場合、米国はWTOの「紛争解決に係る規則及び手続きに関する了解(DSU)」に訴えることも辞さない姿勢である。とはいうものの、ベーダー代表補は、DSUは多くの時間及び人員を要する可能性があるので、望ましいアプローチではないと釘を刺している。

3.中国の約束実施努力に関する「成績表」

 ベーダー代表補は、中国のこれまでの約束実施努力に関する「成績表」を示して、中国は透明性及び関税の引下げのような一般的な事項に関して進展を遂げたと述べた。しかしながら、保険及び国際クーリエ/速配サービスに関する新たな規則、並びに工業品及び農産品の数量割当の配分の遅延という問題が明らかになっている。
 ベーダー代表補は、規則の実施における透明性を向上させる中国の努力に特に感心している。例えば、中国はWTOで要求されているように、規則の案に関して90日間のコメント提出期間を設けている。しかしながら同代表補は、規則草案の質には「改良の余地が多い」と注意を促している。ベーダー代表補は、中国の規制機関は新たな規則を案出することがしばしばあり、したがって自らの凝り固まった慣行に対しより厳格な規律を課すことにほとんど関心がないことを指摘した。

A.農産品の関税割当
 ベーダー代表補は、中国による農産品に関する関税割当の配分の遅延は、米国の対中最優先事項の一つであるとコメントした。同代表補は、配分は1月1日までと約束されていたが、3月末までずれ込んでいると説明した。同代表補は、遅延は同分野で確立された既得権益によるものであると考えており、配分が間もなく行われることに懐疑的である。

B.工業製品の関税割当及び関税率
 ベーダー代表補は、自動車及び腕時計など、工業製品に関する割当の配分が遅延していることにも言及した。にもかかわらず、同代表補は、関税率引下げ約束を反映した2002年度版の関税率表を期日通りに公表したことに関し、中国を評価している。

C.保険サービス
 ベーダー代表補は、保険サービスに関する約束が実施されていないことを、「加盟によって何も変わっていないようだ」ときっぱり批判している。ベーダー代表補は、中国が2月1日発効の新たな保険規則を公表した後の免許要件及び支店開設権から生じる問題に特に言及した。
 免許に関しては、ベーダー代表補は、プロセスが依然として「大変に政治的」であり、中国の保険規制機関(中国保険監督管理委員会、CIRC) は、依然として免許を付与する前に朱首相または江主席に承認を求めている。同代表補は、WTOの免許要件は、非政治的であることを想定しており、且つプルデンシャル(中立)基準に基づいていると主張した。
 支店開設権に関しては、ベーダー代表補は、中国は外国のサービス提供者に支店営業開設権を「曖昧に認めていた」と述べている。同代表補は、煩わしい資本化要件など、中国の支店に先立つ子会社の設立に関する要件は、「非常に問題」であり、中国が主張するような単なる技術的な問題ではないと主張している。

D.国際クーリエ/速配サービス
 ベーダー代表補は、中国の国際クーリエ/速配サービス提供者に関する新たな規則を批判し、確立されている独占(中国郵政局)は、同分野における中国のWTO約束遵守を妨げていると主張した。同代表補は特に、手紙の配達を重量によって制限しようとする努力、並びに省レベルでの煩雑な免許要件を指摘した。
 重量制限に関しては、ベーダー代表補は、500グラム以下の手紙の配達を行う外国のサービス供給者に関する新たな制限を批判している。省レベルでの免許に関しては、同代表補は、速配企業が特定の省内で営業するには、当該省において承認申請しなくてはならないという要件を批判している。

E.流通サービス
 ベーダー代表補は、流通分野では特に問題は生じていないとはしながらも、将来に多くの困難が生じることを予想している。同代表補は、この分野に国家的な管轄機関がないことによって、省レベル及び地方レベルで多くの不一致が生じるという結果になると考えている。また、国家より下のレベルでは、WTO約束実施に関する理解及び義務感(commitment)は、これよりはるかに「ぼやけている」と考えられる。

結びの言葉及び質疑応答

 最近見られている実施活動の最近の例として、ベーダー氏は、USTRが3月19日のWTOのサービスの貿易に関する理事会(GATS理事会)において、中国の保険及び国際クーリエ/速配サービスに関するGATS約束の実施に懸念を表明したことを挙げた。ベーダー代表補は、米国がWTO加盟国にGATS理事会で米国独自の懸念事項を表明する権利に関する支持を求めたが、このうちEU、日本、カナダ、並びにスイスを含む国々は、特に保険分野における米国のアプローチを支持する声明を出したと述べた。中国が、米国の懸念を経過的審査メカニズム(TRM)のマンデートを超えているとして退けたことに関する質問に対し、ベーダー代表補は、中国に当初抵抗されたからといって米国が退くことはないと答えた。同代表補は、中国はTRMがいかに機能するかに関して混乱していたため、反対したものとしている。実際、USTRは、適切なWTO機関に自らの懸念事項を表明し続ける意向である。
 ベーダー代表補は、米国の201条セーフガードに関する中国による最近のWTO協議要請に関する質問にも答えた。同代表補は、中国は、協議を要請した後、ワシントンに大規模な使節を送ってきたと述べた。しかしながら同代表補は、中国は鉄鋼分野における輸入代替政策を追求しており、したがって、同国のアプローチは非常に保護主義的であると主張した。
 ベーダー代表補は、米国と中国の経済は非常に相互補完的であり、多くの分野で競争がないとの言葉で締めくくった。同代表補は、メキシコは多くの分野で中国と競争しているため、中国の加盟交渉を終結した最後の国となったことを指摘した。とはいえ、米国は中国が全てのWTO約束を実施し、問題が発生し次第それに対応することを熱心に追求してゆく意向である。

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